研究中のテーマ(2022年8月更新)
研究課題
- 発生電力や感度,耐久性を向上するデバイスの構造や磁気回路に関する研究 -> 積層型にて実用的な構造になっています。
- 磁歪材料を効率的に利用するための特性評価技術 -> 簡易評価システムを構築,これを運用しています。
- 共振周波数の調整・制御,動作周波数の広帯域化(低,高周波数側への拡張) -> 広帯域化する様々な方式を開発すると共に,デバイスのラインナップを拡充,その利用周波数を3Hz~500Hz 程度まで拡張しています。
- 様々な振動や動きを,発電に適した振動に変換するメカニズム -> 連続振動のみならず,ゆっくりな動きに対応する方法として,動きから自由振動を発生する変換機構(スイッチ型)や衝撃で発電するデバイスも開発しています。
- 発生電圧を負荷に適した電力に変換・蓄電する電気回路 -> 磁気や回路理論,パワーエレクトロニクスを活用した高効率で実用的な回路を開発する予定です(予備研究実施済み)。
- 電池不要で動作する無線センサシステムとその応用 -> 実振動で,当方の振動発電を電源に,短距離から長距離,リアルタイム(3軸加速度サンプリング800Hz)など様々な無線センサモジュールが動作することを実証しています。
- スケールアップによる大電力発電の可能性の検証 -> 大型化で,1ワットを出力するデバイスも開発。強度振動を発生する機械に設置,実振動で長期の耐久性も実証中です。
- 流力振動を用いた発電システム(金沢大学機能機械工学科流体工学研究室との共同研究)-> 従来の風車を利用するのではなく,シンプルで微風(~1m/s)で無線モジュールを動作させるデバイスを開発中です。
ユニモルフ型発電機 (現在は積層型に移行しています)
現在の発電機は右の写真のように一本の磁歪素子で構成されています。これをユニモルフ型と呼んでいます。ユニモルフ型は磁歪素子を2本用いた場合(バイモルフ)に比べ,部品が少なく(半分),構成もシンプル,耐久性も向上しています。発電量もバイモルフ型とほぼ同じです。磁歪素子の使用量が半分に減ることで,デバイスを安価にできます。(発電機の性能評価については英語のページをご覧下さい。)
動きを振動に変換するメカニズム
一般に振動発電では,周波数が高いほど発電量が増加します。高い共振周波数を持つ発電機は,高周波の振動を効率よく利用することができます。しかし日常の振動や動きは一般に低い周波数の振動です。つまり実用化のポイントは,低い周波数の振動や動きを発電機に適した共振振動に変換するメカニズムにあります。例えば,右の写真はボタンを押す動きで発電を行う発電スイッチです。これは永久磁石を利用し,ボタンの押し込みで磁石が発電機から突発的に外れることで自由振動が発生します。つまりゆっくりとした動きでも発電が行えます。本研究では,高次の共振周波数の利用や,音叉やL型の形状など,効率よく動きや振動から発電を行うメカニズムの開発を行っています。
理論モデル
振動発電は機械系と電気系が磁歪素子(変換部)を仲立ちとして結合した連成系です。機械系(振動体)はバネ,質量,ダンパ,電気系はコイルの抵抗とインダクタンスで構成される等価回路(下図)で表現されます。回路の加振力(左)が入力,負荷の電圧(右)が出力で,機械系の力,速度は電気系の電圧,電流に対応します。ここで振動により素子に速度(伸縮)が生じると,変換部は速度に比例した起電力av (a:結合係数)を電気系に発生します。この起電力で電気回路に電流が流れ,負荷で電力が消費されます。また電流が流れると,変換部は磁歪効果で機械系に電流に比例した力aiを発生させます。これは振動を減少させる作用をします。本研究では,この理論モデルの妥当性を実験により検証し,効率の良い発電機の構造や負荷条件,回路構成を探索しています。
大きな発電
スケール効果(体積と発電量の関係)の検証を行っています。デバイスの寸法をK倍すると,電圧はK倍,巻き線抵抗は1/K倍され,結果,電力はKの三乗倍になると予想しています。つまり体積に比例して発電量は増加します。この関係は二つのデバイスを比較することでおおよそ実証されています。(2mWを出力する小型の発電機に対して体積を1000倍した大型の発電機では2Wの発電量が得られました。)この効果を考慮すると,将来的にキロワットやメガワットの発電も実現できる可能性があります。大きなエネルギーを取り出す方法として風や波の利用を考えています。特に水の流れは大きなエネルギーを持っています。もし流れを振動に変換することができれば,大きな発電を行うことができます。
実用化のポイント
発電でライトを点灯させる,音声を発生させる,情報を送るなど使い方のアイディアはたくさんあるでしょう。このとき注意が必要なのが発電量です。例えばLEDを一個点灯するのには1mW程度の電力が必要です。基本的に低い周波数の振動で大きな発電を行うのは難しいと考えて下さい。静止している物体からはエネルギーは取り出せません。しかし発電機に変位と力が作用すれば、ゆっくりとした動きからもエネルギーを取り出すことはできます。この時の電気エネルギーは仕事量で力×距離×1/2×効率と計算できます。例えば、発電機の効率を20%として1Nの力で1mm押し込んだ時に取り出せるエネルギーは0.1mJです。(実際には、これに電力変換の効率分減少します)仮に、このエネルギーが10m秒で取り出せたときの平均電力は10mWです。つまり振動発電では、ゆっくりとした動きを効率よく(損失なく)振動に変換するメカニズムの開発がポイントです。エネルギーをつくる分、少し大きな力を加える必要はありますが、それよりも電池を使わない、配線がいらないメリットを生かすべきです。例えば,ほとんどが待機電力で1,2回しか使わないものや、雨ざらしになる屋外、配線や防水が面倒な高所、水中など活用できる場面はたくさんあります。電池の交換がわからない子供やお年寄りが使う機械にも有効です。
大きな発電を行うには2つの方法があります。一つは発電機自体を大きくすること,もう一つは電力のもとになる仕事率(力×速度)を大きくする,つまり高い周波数の振動を利用することです。後者のためには,発電機が高い共振周波数と堅牢性を有していることが望ましいです。更に10年、20年と使うことを想定すると,材料のみならず発電機全体の耐久性も必要です。以上,実用化のポイントをまとめます。
- 振動発電の利用の仕方や用途,メリットを考える。
- 動きを効率よく振動に変換するメカニズムを考える。
- 材料やメカニズムを含め発電機の耐久性や出力が十分かを考える。
- 材料や製作にかかるコストや手間を考える。
発電機のコストは,主に磁歪材料です。材料費の影響が大きくなるのは大きな発電機です。米国では安価な磁歪材料の開発が進んでいます。また将来を見越して,実用を目指した商品開発も始まっています。振動発電が普及する日もそう遠くないかもしれません。