発電靴

発電靴の試作を行いました。靴が地面に着地すると発電を行います。


 振動発電デバイスはコの字型(下の写真右上)で、磁歪素子(鉄ガリウム合金、1×12×26mm)、コイル(線径0.1mm、150Ω)、コの字型のヨーク、永久磁石から構成されます。重さは30g程度です。

 デバイスは、靴のヒールの中央に幅16mm、長さ65mm、深さ18mm程度の溝を空け、そこに固定されます。下の写真左上参照。具体的には、コの字型のヨークの一足の全面が溝の底に接着されています。(取り換えが出来るようにするならヒールに金属板をつけ、これにネジ止めにします。)またヨークの他方の一足は自由端で、先端には着地時の力を受ける部材が取り付いています。部材はゴムや金属などで、直方体もしくは半円柱、半円球の形状をしています。(試作品は直方体のゴムを取り付けています。)
 部材は、ヒールから少し出っ張っていることで、着地時の力が部材に点もしくは線、面で作用し、デバイスが変形します。デバイスはコの字の先端が狭まるような変形を行い、平行梁中の磁歪素子には一様な引張り力が作用し、内部の磁力線が逆磁歪効果で増加します。この磁力線の時間変化でコイルに起電力が発生します。

 力はステップ状で、写真の試作品では最大10V程度の電圧(瞬時電力0.2W程度)が発生します。例えば下の写真右下の1WパワーLED24個が点滅します。なお発生電力は、ヒール(部材)への力の加え方に依存します。ゆっくりと踏めば起電力は小さく、早く踏み込めば起電力は大きくなります。

 このデバイスは15mm以上のヒールの高さがあれば装着が可能です。ヒールが型崩れしないよう溝は中央がよいですが、場所は任意です。小石などでデバイスを破損しないよう溝を蓋で覆う対策も必要と思われます。デバイスを小型にすることで、より薄いヒールでも大丈夫です。ただし発生電力は体積に比例し減少します。また部材の形状で、起電力を調整します。例えば、出っ張りが大きいほど、起電力は大きいです。ただし大きすぎるとデバイスが大きく変形し、破損するので注意が必要です。逆に出っ張っていない場合、ヒールの変形に伴いデバイスが変形しない状態では起電力は小さいです。この時、着地時の衝撃で先端の質点に作用する慣性力で発電が行われます。この場合、起電力は衝撃加速度、質点の質量、デバイスの共振周波数に依存します。ゆっくり踏むとほとんど起電力は発生しません。
 起電力はLEDを点滅させるのに十分で、また整流して直流電力としキャパシタや2次電池に蓄電することも可能です。これを電源にセンサやGPS信号の無線送信も可能と思います。

 発電靴として、靴底が床に接地した時の衝撃加速度(~10G)を利用する(間接)タイプと、体重による力(~100N)を利用する(直接)タイプがあります。一般に直接タイプの方が電力が取れます。また従来研究として、圧電素子や発電機とギアの組み合わせを利用するものがありますが、圧電素子は衝撃、曲げに弱い、発電機は構造が繁雑である欠点があります。磁歪式は堅牢で直接と間接の両方の力を利用できます。またシンプルで作製も容易、効率も高いです。錆を防ぐコーティングを施せば耐水性も十分です。ステンレス、鉄と接合できる部材であれば、ヒールの材質は問いません。またヒール内部に実装されるため、靴底以外からはデバイスが見えることはありません。(下の写真左下参照)

課題
 デバイス実装時の歩き心地について今のところ違和感はありませんが、検証が必要です。デバイスの長期利用、過度な力に対する耐久性の検証が必要です。例えば形状のへたれや接合部の強度に関するものです。

2015年9月24日 公開 (文責 上野 敏幸)













追加情報 (2015年9月26日更新)
 発電靴の評価を簡単に行いました。靴を履き、踵を5cm程度上げ、樹脂製の床に踏み降ろしたときの発生電圧を測定しました。500Ωの抵抗を負荷として接続し、その端子電圧をオシロスコープで測定した結果が下の図です。軽く、普通、重く踏んだ場合の3パターンを比較しました。ピーク電圧としてそれぞれ4.4V, 6.4V, 10.2Vが得られ、またジュール損(=v^2/R)を時間積分して算出したエネルギーはそれぞれ0.09mJ, 0.18mJ, 0.38mJでした。発生電圧は十分、普通でも10歩の歩行で1.8mJが得られ、その都度、ワイヤレスでセンサ情報を送れると思われます。(スマートフォンが充電できるほど大きくはありません。)
 また負荷抵抗をパラメータとしてピーク電圧とピーク電力の関係も測定しました。各抵抗において6回の測定(図中□)を行い、最大、最小を除いた4回を平均したのが○です。おおよそ500Ω付近で整合し、0.11W程度の最大電力が得られることがわかりました。なおコイルの直流抵抗は150Ωで、整合抵抗がこれと一致しないのは、変換部を介し機械系が電気系に影響するためです。上の写真のLEDを繋ぎ、床を踏んだときの様子を動画で示します。踵が接地するたびに赤と青のLEDが点滅し、測定した十分な電圧、電力が発生していることが確認できます。
 スポーツシューズにデバイスを実装したものも試作しています。この場合、デバイスを靴底のくぼみ(13mm程度の深さ)に接着剤で接合しています。同様な原理で発電が行えます。現状、力の作用箇所やゴムの形状、材質などを調整する必要がありそうです。
 なお電力はコイル端子に2線のビニル線をターミナルを介し接続し取り出しています。ボトムスに導電性繊維を埋め込み、このビニル線とスナップボタンなどで結線することで、腰付近から電力を取り出すことも可能かと思います。

 このデバイスについてまままだ改良の余地はありますが、これを利用する是非については乾電池、ボタン電池に対するメリットを考えなければなりません。電池の容量は大きく、使用方法によってはその寿命は靴のそれ以内に収まります。論文を書く目的ならよいのですが、実用化においては、コストも含め、振動発電を利用するメリットを考えるべきかと思います。




                         測定結果

        

                          発電の動画
 


                   スポーツシューズにデバイスを実装した試作品